糖尿病の三大合併症の一つで、腎症、神経症とならんであげられる病気です。自覚症状がないために、発症になかなか気がつきませんが、網膜が腫れたり、硝子体の中にまで出血すると、視力の低下として自覚されます。
また、働き盛りの年代をおそう糖尿病網膜症は中途失明が多く、大変厄介です。
糖尿病の罹患期間が長くなるにつれて、その頻度も高くなり、約10年で、およそ半分の方が網膜症を合併しているといわれています。
糖尿病網膜症は「単純」「前増殖」「増殖」の病期に分けられ、それぞれの時期で治療が変わります。また、視力低下を引き起こす「糖尿病黄斑浮腫」はすべての時期で起こることがあります。
日本の中途失明原因の第二位は、この糖尿病性網膜症です。眼科的に異常を認めない場合でも半年から1年ごとに眼科受診を心がけてください。

【糖尿病網膜症の原因】

糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの量が不足したり、働きが悪くなったりすることで起こります。
インスリンは、食事から得たブドウ糖を全身の細胞に取り込み、活用させる際に必要なホルモンです。
その作用が低下すると、血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれなくなり、高血糖の状態が続きます。高血糖状態の血液は、全身にさまざまな障害を起こします。その中のひとつの疾患が糖尿病網膜症であり、糖尿病患者の方の約40%に見られます。

【糖尿病網膜症の症状】

糖尿病網膜症の初期には自覚症状がないことが多いです。

重症化して眼の中で出血を起こしたり、網膜剥離を起こしたりしてくると、

・目の中に煙のすすがたまったように視界が見づらい
・真っ赤なカーテンがかすんで見える

などの症状を起こし目が急に見えにくくなります。

この段階の治療には、手術を必要とすることが多くなりますが、手術がうまくいっても日常生活に必要な視力の回復が得られないこともあります。

【糖尿病網膜症の進行具合について】

糖尿病網膜症の進行具合は大きく3段階に分けて考えます。単純性、前増殖性、増殖性と分けられます。

●正常な状態

糖尿病を患っていても、眼底に何も異常がない場合はひとまず安心です。
しかし糖尿病は生涯治ることのない病気のため、血糖のコントロールは大切です。適切な食事運動とともに、内科の先生の指示に従い、血糖を下げる薬やインシュリン注射などが必要です。また、眼科の検査も半年に一度はするように心がけましょう。

●単純性網膜症(糖尿病網膜症の初期)

小さな眼底出血や白斑がみられます。自覚症状はほとんどありません。
血糖値のコントロールをしていれば、多くの場合は進行を抑えられます。ただし、定期的な経過観察が必要です。3ヵ月に1回ほどの頻度で眼科をご受診ください。

●前増殖糖尿病網膜症(糖尿病網膜症の中期)

小さな眼底出血や網膜における血流が悪くなるなどの症状が現れますが、患者様によっては自覚症状がない場合もあり、黄斑浮腫でなければ視力が低下しないこともあります。
ただし放置を続けると増殖糖尿病網膜症に進行しやすく、血流不足による酸素・栄養不足に陥った網膜に対しては、レーザー治療(網膜光凝固術)を行う必要があります。
増殖前糖尿病網膜症と診断された場合には1ヵ月に1回程度の受診が必要です。

●増殖網膜症(糖尿病網膜症の末期)

ここまで進行が進んでいる場合は、かなり悪化した状態です。
目の中の出血も大きく、網膜がはがれてくるケースもあります。レーザー治療、ステロイドの使用、出血によりにごった硝子体の切除をすることで進行を食い止めるような処置はしますが、残念ながらより悪化して失明する可能性もあります。
1週間から2週間に1度の診察が必要になります。

【糖尿病網膜症の検査方法について】

糖尿病網膜障かどうかを判断するためには主に以下の検査を行います。

●精密眼底検査

目の内部は透き通っているため、目に光をあてることにより眼球の奥・内部を観察します。眼底をより詳しく観察するため、瞳孔を拡げる目薬を点眼してから検査を行います。目薬が沁みる程度で検査中の痛みはまったくありません。散瞳薬点眼後は瞳孔が拡がりますので、特に手元が見辛くなり、まぶしさが続きます。

●蛍光眼底撮影検査

(さいげきとうけんびきょう)検査

蛍光眼底撮影検査は、目の奥の病気(眼底疾患)により視力の低下した方、又はその疑いの方に対して、より正確な診断に基づき、適切な治療計画を立てることを目的として施行されます。前腕静脈(腕の血管)から蛍光色素剤を注射し、この液が眼底(網膜)の血管に達した時期に撮影を行います。
この検査を行うことによって、通常の検査では知ることの出来ない情報が得られ、病因の解明や治療方針の決定に欠くことの出来ない検査です。

【糖尿病網膜症の治療方法について】

糖尿病網膜症は、一度進行してしまうと完全に治すことのできない病気です。
治療は、症状の悪化を防ぐため、緩やかにするために行われます。
進行具合により、治療方法は異なります。

初期:糖尿病自体の治療と同様、血糖(血液中の糖分量)をコントロールすることが必要です。

中期:新生血管の発生を防ぐために、レーザーで網膜を焼くレーザー光凝固術が行われます。また、視力低下や歪みなどをもたらす黄斑浮腫に対して、ステロイドや抗VEGF薬の眼球への注射を行います。

末期:難治性の黄斑浮腫や、硝子体出血及び網膜剥離に対して外科治療などを行います。

●血糖コントロール

 

原因となる糖尿病を改善しない限り、網膜症に対してどのような治療を行っても、また同じ病変が起こってしまいます。
とくに、初期の単純糖尿病網膜症の段階であれば、血糖コントロールをしっかり行うことで網膜症の進行をある程度食い止めることができます。

●レーザー光凝固治療

レーザー光凝固は、レーザー光線をあてて傷んだ網膜を萎縮させ、網膜症の進展を防止する治療法です。症状により、治療は数回に分けて行いますが、1回の治療時間は、約10~15分程度です。レーザー光線はあくまで予防治療で、視力を向上させるわけではありませんが、網膜症の進行をふせぐためには必要不可欠な治療です。

●硝子体手術

新生血管が破れて硝子体に出血を起こす硝子体出血や、網膜が眼底から剥がれる網膜剥離が起きてしまった場合には、硝子体手術が必要となります。手術は通常、局所麻酔で行います。また、糖尿病黄斑浮腫でも手術が行われることがあります。
眼球内の圧力を保つために灌流液を注ぎながら、吸引カッターで硝子体内の出血を吸い取ったり、剥がれた網膜を元に戻したりします。

【硝子体手術の方法について】

①硝子体出血に対する硝子体手術…黒目の縁(角膜輪部)から約3mmのところに0.5mmくらいの穴を開け、器具を出し入れして手術を行います。
硝子体に混じった出血は、硝子体と一緒に吸引、切除します。

②増殖膜の手術…網膜上に張った増殖膜は、カッターという器具や、剪刀(せんとう)というハサミのような器具で切除、除去します。

【手術の合併症について】

網膜硝子体手術は医学の進歩により、最近は安全な手術ではありますが、合併症はゼロではありません。 発見が遅れ網膜症が進行してしまった状態でレーザー治療を解する際は、レーザー治療後に暗く見えたり、ものを見る中心(黄斑部)に水がたまってしまうことがあります。

【糖尿病網膜症治療の費用について】

費用については治療ごとに異なりますので、詳細についてはお問い合わせください。